動物の痕跡と創作への活用

 

アニマルトラック&バードトラックハンドブック

アニマルトラック&バードトラックハンドブック

 

 

主に動物の足跡について書いた本

 今回紹介するのは「アニマルトラック&バードトラックハンドブック(著:今泉忠明)」 小説とかではなく、動物の痕跡について解説した本です。書くうえでの資料に使ってます。

 あくまで現実に存在する動物の痕跡についての本ですが、解説されている内容はファンタジー作品などに出てくる化け物が残す痕跡にもすり合わせ、転用していけるものです。

 解説されている痕跡で主なものは足跡。足跡一つとっても獣ごとに形が違うだけではなく、その獣がどういう状況で足跡を残したかの推測材料になります。

 例を挙げると、同じキツネが残した足跡でも「歩行」「速歩」「走行」「疾走」で足跡のパターンが変わる事についても書かれています。

 人間でも歩行と疾走では靴跡の残り方が違うと言えば、馴染み深いでしょうか。ゆっくり歩いていればペタペタと靴全体がスタンプのように残りやすいですが、走るとなるとつま先で大地を蹴るように進んだ場合、かかと部分の跡は残りません。

 

創作への活用方法:バケモノも痕跡を残す

 この手の足跡について読み取る知識は狩猟で役立ちます。創作世界であればモンスター、魔物が残す痕跡について描写する時の足がかりとなり得ます。

 例えば「特定の魔物を追っているシチュエーション」で痕跡について書くとなると、こんな感じでしょうか。

作例:痕跡によるバケモノ追跡

主人公「僕達が追ってるステゴサウルスはこの谷沿いの道を走っていったようだね」

ヒロイン「何でわかるんですか!? しゅごい」

主「ステゴサウルスの足跡が残っているだろう? これを追っていけば……ほら、この広場で戦ったようだね」

主「ここ一帯だけステゴサウルスと人間の足跡がそこら中についている。これだけ踏み固められて、なおかつ血痕が残っているとなると戦闘があったと見て間違いない」

ヒ「さすごしゅ!」

主「そして、ステゴサウルスはここに横倒しで倒れ死んだようだね。既に死体を持っていかれたようだ。ごらん、荷車の轍が街に向かっている。やれやれ、横取りされてしまった」

ヒ「アレの死体を持って帰らないとウチの弟が死ぬのに……何か手はないんですか!?」

主「無いよ。横取りされたから仕方ないね」
ヒ「刺すごしゅ!」

 本に書かれているのは足跡だけではありません。「特徴的な習性」「食べ痕」「生活痕」「ヌタ場やラッセル痕」「動物の落とし物(糞)」についても簡単に紹介されています。

 ただ、足跡以外については大体軽く触れている程度です。ですが入門書としてこれを読み、さらに詳しい知識はこれ以外のアニマルトラックについての本を読んだり、実際に山に入る事などをオススメします。

 内容も絵が多く読みやすく、狩猟用やアニマルトラッキング用だけではなく、創作の資料や設定作りの材料になること請け合いです。

 

スライムも痕跡を残す?

 例えば動くスライムが現実にいたとすると、移動手段がナメクジ的な「這う」という手段を使ってる場合、地面に残る痕跡はズリズリと這いずった形になるんだろうなぁという妄想が捗ります。

 這いずる場合、進行方向に土が寄っていく形になるでしょうから匍匐跡から「スライムがどの方角に進んでいったか」の判断材料を得られる筈です。こういう痕跡は創作物内でスライム狩りをしようとしている冒険者なり狩人が追跡する手がかりとする描写に使えるでしょう。

 現実に動くスライムがいないにしても玩具のスライムを実際に土の上を転がし、痕跡を観察するとさらに詳細な創作資料が手に入るはずです。俺は怠慢なのでそこまでしてませんが。

 進行方向に関してはスライムに限らず、他の動物でも推測出来ます。犬であれば爪と肉球の配置でどの方角を見て立ち、歩いていたかがわかりますよね。

 創作世界であれば犬に限らず、それに似た足跡の生き物達にも同じような推理を当てはめていく事が出来ます。例えば狼型の魔物とか。

 人間の靴底も前後対称のものはあまりないので、人の追跡してる時にも判断材料になりますよね。

 足跡の横幅も推理の材料になります。右足と左足の足跡の間がどれだけ離れているかで「おおよその横幅」が推測出来る事があるためです。

 人もよほど大股で歩いていない限り、残る足跡は肩幅程度のものになりますよね。それと同じです。

 創作の世界に活用していくとなると、全幅5mの四足歩行ドラゴンがいたとしましょう。デカいトカゲです。左右の足間距離や足跡の大きさを書く事で足跡を見ただけでも「これを残した魔物は馬鹿でかい奴だぞ」と登場人物に言わせる根拠になります。

 尻尾があるなら、巨大な尾が引きずられ、大蛇が這った跡の如く地面に残ってる残っているかもしれません。軽く振った時に尻尾のある高さの草木が外側に向かって折れているかもしれません実際に化け物と対面せずとも「どんな化け物か」を判断する事が出来るでしょう。

 定番の冒険者ギルドなり、魔物研究機関でもあればその手の痕跡は収集しているかもしれません。討伐の役に立つのでしない手はないでしょう。魔物狩りを生業としてる個人でも把握してるかもしれません。

 

痕跡は背丈も示す

 痕跡により、横幅以外にも全高を判断する事も可能です。既知の動物、化け物であれば足跡のサイズを過去のデータと照らし合わせれば大体の大きさもわかるでしょう。

 他、木や枝から推測出来るかもしれません。例えば木枝が不自然に折られていたとしましょう。自然に折れていないなら「魔物の身体が当たって折れた」などの可能性を推測出来ます。

 地上から10mの地点にある枝が折れていた場合、それぐらいの全高を持つ化け物が闊歩していたとわかるかもしれません。枝に限らず、木に爪とぎの跡が残っていればこれも判断材料になるでしょう。

 他、木肌や大岩にこすれて抜けた化け物の抜け毛、こすれた血痕や泥の跡があるかもしれません。抜け毛に関しては毛質で種を判断する材料になるかもしれませんね。

 足跡は常に残るとは限りません。極端な話、硬い石畳には残りづらいものです。反面、柔らかい泥や雨後の地面、雪が降った後であれば足跡は残りやすくなるはずです。砂漠などは時間が経つと砂が動いて足跡が消えるかもしれませんね。

 どんな場所であっても足跡がどの程度消えかけているかで、足跡の主がどれぐらい前に通ったか、という判断も出来るかもしれません。前日に大雪が降っていたとしたら、一昨日の足跡ではないと消去法で判断出来たりもします。

 地面に転がった糞便も立派な痕跡です。まだ温かければ糞野郎は近くにいるでしょう。柔らかく便秘気味であれば体調が悪いです。ぶっ殺すチャンスですね。

 このように物語の世界に出てくる化け物もフィールドサインを残す可能性に満ち溢れています。化け物との戦いを扱う場合、戦闘以外に痕跡に関する話を込める機会に恵まれるでしょう。

 獣達の生活習慣と移動の動線を考え、獣道に関しても触れていくといいかもしれません。

 空飛ぶ化け物が残す痕跡も、抜け落ちた羽毛や竜鱗などで直接相対せずとも判断出来るかもしれませんね。立派な糞も落ちているかもしれません。

 今回触れた痕跡の例はほんの一例で、紹介したアニマルトラック&バードトラックハンドブック(長い)以外にも痕跡関係の本は色々とあります。

 お近くの図書館にもあるかもしれません。現実の狩猟関係の資料は創作の妄想がとても捗り、描写をより良いものに近づける助けになる事もあります。書き込んだところで小説全体が面白くなるわけではありませんが……。

 

作例:痕跡の対人利用

ヒロイン「大変ですよ! ウチの村に悪名高いパコハメ盗賊団が攻めてきそうです!」

主人公「そういう時はこれ! ステゴサウルスの脚の剥製!」

ヒ「そんな粗大ごみ、何に使うんです?」

主「これを村の周辺にスタンプの如く押しまくるんだ。向こうがステゴサウルスの大群がいるとビビって逃げてくれるに違いない」

ヒ「さすごしゅ!」

 

盗賊「か、頭ぁ! 大変です! あの村の周りはステゴサウルスの足跡でいっぱいです! これでは村娘ちゃん達のパイオツを揉めませんよ」

頭「見せてみろ。……ふむ、これは偽の足跡だな」

盗賊「どうしてそう言い切れるんです?」

 

頭「足跡が浅い。ステゴサウルスは横綱10人分に匹敵する体重を持っているからな。本物ならもっと深くまで足跡が残っている。だから遠慮なく攻め落として男は殺し、女はお前たちの好きにしろッ!」

盗賊「さっすが~、お頭は話がわかるッ!」