「十三世紀のハローワーク」紹介と狩狼官から見る冒険者が働く動機

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク

中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク

 

イラストいっぱい昔の職業図鑑

 今回紹介するのは「十三世紀のハローワーク(著:グレゴリウス山田先生)」です。

 内容はかつて存在した100以上の職業に関し、ふんだんにイラストを使って紹介してくださった本です。漫画感覚で読む事が出来ます。

 ヴァイキング、剣闘士といった戦うお仕事に限らず、石工・鵜飼・傘貸し屋・鯨骨職人・コーヒー嗅ぎ・鳥刺しなどなど日常を支える職業も多種紹介されています。

 ファンタジー世界の物語を作る時、日常に存在する職業として入れ込んでいく助けになります。2000円超えて来ますがイラスト図鑑的なものなので値段分の価値は十分あります。眺めてて楽しい。

 amazonの商品説明のところにどんな形で書かれているかの画像あるので、そちらも御覧ください。

 

中世のハンター:狩狼官

 資料用、鑑賞用ならず、妄想にも役立ちます。拙作、異世界職業図鑑も影響を受けています。特に影響を受けたのは「狩狼官」についての項目です。

 索引に書かれているお言葉をお借りすると狩狼官とは「狼狩りの専門家。狼に関する狩猟の権利を独占していたが、越権と無能のためにあまり役に立たなかった。」というものです。

 物語世界の冒険者みたいな存在だ、と考えるとムクムク妄想が広がり、異世界職業図鑑では冒険者の収益モデルとして影響を受けました。

 狼を魔物、モンスター、化け物に置き換える事が出来るよね、と。

 物語世界に出てくる冒険者、ハンター、狩人も職業です。化け物と命がけで戦う以上、戦う動機が必要です。伊達や酔狂だけでは生活出来ていない筈です。

 戦う動機に関しては以下のようなもの等が考えられます。

  1. バケモノの死体が売れる(直結収入型)
  2. 経済活動の邪魔ゆえに駆除必要(間接収入型)
  3. 強さを示す儀式(伊達や酔狂)

 3.はさておき、1と2は狩猟する事で収入が得られます。

 1は肉や毛皮の事です。ゲームであれば身も蓋もなくお金がドロップする事がありますね。

 他、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」であればモンスターを倒す事で魔石という物品が手に入り、それを売って収入を得る事が出来ます。

 2の経済活動は例えば「街道にバケモノ居座って交易の邪魔になっている」「鉱山近くにバケモノがいて鉱業が出来ない」という障害として登場するがゆえに討伐する必要性が生まれるものです。

 討伐の報酬を払うのは街道を商人なり国、組織です。

 報酬に使う財源は交易収入、鉱業収入から必要経費として供出する事になります。何でも感でもバンバン報酬支払ってくれる太っ腹な世界もありますが、多分、裏では経済活動――というか財源に結びついてる何かがあるんでしょう。

 十三世紀のハローワークにて紹介されている狩狼官は「間接収入型」の報酬を得る方法が示されています。

 もちろん狼の毛皮を売るなどの直結収入型の対価も両取りで得ていたと思われますが、ファンタジー作品によく出てくる報酬を得る方法とは少し違う間接収入型なのです。

 どういうものかと言うと、「狼を仕留めると、周囲8キロの各家庭から税を徴収する権利が与えられた」というものです。徴税権ですね。

 国の依頼で動く場合、国庫から報酬を貰うにしてもその国庫に入っているのはそもそも税金でしょうけれども、徴税権そのものが与えられている作品は私は見た事がありません(あったら教えてください……)

 これは狼を魔物に置き換えれば色んなものに転用出来るでしょう。

 やったよ冒険者ちゃん、タダ働きせずに済むよ。

 でも、クソみたいな制度ですよね。

 創作で扱う分には面白いんですが、実際に我が身に徴税報酬制度の影響が及ぶと「ふざけんなカス」と思うこと間違いなし。

 実際、13世紀のハローワークでもこれは悪しきシステムとして書かれています。あえて悪用し放題な制度を導入するのも創作の醍醐味だと思います。

 

作中の収入モデルとして徴税権は使っていいのか?

 税金払うの大好き!! という人は中々いらっしゃらないでしょう。

 そう思うのは現実に存在する人だけではなく、創作物の中に登場する人々――例えば名もなき農民や町民なども、臨時の徴税はあまり良い顔をしないはずです。

 もちろん、バケモノによる実害を受けていたり、生きるか死ぬかの状況に自分が置かれていたのであれば、少しは理解を示してくれる筈ですが……それでも徴税権は徴税権です。

 物語に出てくる主人公がこの制度を使うとなると登場人物の思考回路を捻じ曲げない限り、主人公のみならず冒険者なりハンター業界全体への不満が当たり前な世界になりかねません。

 13世紀のハローワークの狩狼官はクソだよね、というだけではなく良い事も書かれてます。

ちなみにイギリスでは狼狩りはもっと人々に開かれていた。そして彼の地では、税の代わりに狼の首を収めることを認める制度が普及していた。その結果どうだったか? イギリスでは狼は16世紀には早々に絶滅していた。

十三世紀のハローワーク 63ページ

 種の絶滅とか自然保護の観点で言えばヤバいんですが、生き死にかかってますしね。

 魔物ヤバイは絶滅させなきゃ……って世界の場合、徴税権より前向きな動機となり得る免税権で魔物狩る動機を作って友達に差をつけちゃいましょう。

 免税なら、まだ徴税より前向きに考えてもらえる筈です!

 

収入モデル:免税権

 例えばハンターが魔物を狩り、刈り取った首を農民に税金より安く売る。

 農民はそれを納めて免税してもらう。ド違法な臭いがする素敵制度の完成です。ダフ屋かな? いいんだよ農民は助かるから主人公は正義の味方となり、何なら重税を課してくる王政打倒に動いちゃおうねぇ……!

 しいて悪い点を挙げるとなると、物語全体のスケールがショボくなりそうな事でしょうか。人対バケモノがメインの物語でないならいい気はしますが……。

 領主主人公の場合、魔物駆除のために免税制度として普及させる側に回るのも良さそうですが、そこらの農民=魔物狩り素人が免税権に目が眩んで魔物と戦って死んだ、という展開に繋がりそうなので注意が必要な気がします。人なんてそこらに生やせるとはいえ。

 もういっそのこと魔物討伐のために駆除税を設けるのも手かもしれませんね。みかじめ料かな? ここまで来るともう、無頼な冒険者ではなく軍隊で何とかしようね、という話になってきそうです。

 そもそも、荒くれ者ではなく市民に認められる冒険者という職業を成立させるのは難しいですね。

 そもそも武器持って好き勝手に闊歩してる存在が王や領主を脅かしかねないものですし。

 ともかく職業関係の妄想が捗るオススメの一冊で、様々な職業があるので物語の脇を固める人物達が就く職業を決めるのにも役立ちます。

 世界観作りの取っ掛かりに是非。

 

 

オマケ:現実のハンター稼業

www.hokkaido-np.co.jp

 遠藤さんが狩猟免許を取得したのは20代だった2008年。地元でエゾシカが牧草地などを食い荒らす被害が深刻化し、これを食い止めたいと取得を決めた。休日に猟に出かけ、シカやヒグマなどを年間約100頭捕獲する。町に引き渡すと、有害鳥獣駆除の補助金としてシカやクマ1頭当たり1万円を受け取ることができ、「副業としても成り立っている」という。